「咬む」「飲み込む」などの口腔機能は健康を維持するためにとても重要です。最近の研究で「咬めない」「飲み込めない」人は寿命が短いことが報告され,口腔機能の向上が国民の健康を救うことが明らかとなりました。歯や筋力を失うことで高齢者の口腔機能が低下することは容易に想像できますが,実は子どもたちの口腔機能発達不全が近年問題になっています。「むせる」,「食べこぼす」,「お口がポカンと開いている」子どもが年々増えており,また,「麺がすすれない」,「風船を膨らませられない」,「口笛を吹けない」若者が増えています。小児期の口腔機能発達不全は成人になって自然と改善することは少なく,将来的に健康を脅かすことが危惧されています。
なぜ小児の口腔機能発達不全が生じるのでしょうか?理由は「歯並び」と「口腔周囲の筋力低下」にあります。かみ合わせが悪ければ咀嚼能力が低下し,口や舌を動かす筋力が低ければ咬んで飲み込む効率が下がります。歯並びは遺伝だけが原因ではありません。小学生になっても指しゃぶりや舌を前に出して飲み込む癖(母乳を飲む動き)が残っていると,前歯は突出します。また,筋力が乏しく舌が正しい位置にない,お口を閉じていられない場合も受け口や前歯が咬み合わない原因になります。
口腔周囲の筋力低下は柔らかい食事の増加や食事時間の短縮が原因のようです。また,両親が仕事で忙しく1人で食事をする子供ども(孤食)が増えています。孤食の子どもは「食事がつまらない」「美味しくない」と答えており,偏食やよく咬まない原因となることで,口腔機能の発達を妨げることがわかっています。
口腔筋機能療法(MFT)は子どもたちに舌や口腔周囲の筋トレをしてもらう新たな治療法です。歯並びの改善や口腔機能向上に効果があり,MFTを行う歯科医院が増えてきました。しかし,それ以上に口腔周囲筋の発達に重要なのは日常の「豊かな表情」と「正しい食事」です。「毎日家族と楽しく食べる」ことが,子どもの豊かな表情を引き出し,よく咬むにつながり,子どもの未来の健康を救います。忙しいご家族に対してその大切さを伝え,子供の孤食を減らすことが我々の役割かもしれません。





